Minimal、UXを語るnoteをはじめます。
はじめまして。東京の職人による手づくりチョコレート専門店「Minimal」です。
2014年の創業以来、おかげさまで国際品評会では4年連続で61もの賞をいただきました。また、デザインやビジネス分野でも、
「グッドデザイン賞」ベスト100
「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017」
などの「食」以外の領域でも賞をいただきました。
光栄にもこのようにさまざまな切り口で評価をいただくのは、「職人によるモノづくり」と「顧客体験(UX)」というブランドのコアをご理解いただいたからではないかと思います。
この度はじめたnoteでは、このようなブランドにまつわる工夫や試行錯誤を「MinimalのUX」としてお話したいと考えています。
そもそもなぜチョコレート専門店がUXを語るのか?多くの方が抱くであろうこの疑問については、私達が創業からどのようにブランドを構築してきたかということが関係します。
初回となるこのnoteでは、自己紹介と、UXについてのnoteをはじめる理由をお話したいと思います。
Minimalの特徴 -素材×職人×体験で作る美味しさ-
Minimalは、Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)スタイルのチョコレート専門店です。
従来の大量生産型のチョコレートはカカオ豆からの加工は行わず、既にチョコレート生地(クーベルチュール)になった状態で仕入れて溶かし、副材料を加えてチョコレートに加工して作られていることがほとんどです。
一方でBean to Barとは、カカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)ができるまでの全工程(選別・焙煎・摩砕・調合・成形)を、 自社工房でワンストップで行うという、チョコレートの製造スタイルです。
創業当初からMinimalのチョコレートの味は、カカオの産地ごとにバリエーションがあり、「カカオ豆と砂糖だけでこんなに風味が豊かになるの!?」とお客様から驚きの声をいただいてきました。
そんなMinimalのチョコレートの美味しさは「素材 × 職人 × 体験」という3つの掛け合わせによって生み出されています。
"Minimal"の由来は、「引き算」の発想から
チョコレートの多くには、口溶けをよくする成分や香料などの副材料が含まれています。
そうした今までのチョコレートが、味や香りを「足し算」で作っていくものならば、Minimalはチョコレートを「引き算」する発想で作っています。
前述の通りMinimalのチョコレートは余分な添加物を使わず、「カカオ豆に砂糖を加えるだけ」という必要最小限の材料でつくられます。チョコレートの最小限であり、香りの全てであるカカオの品質と、香りを引き出す製法にこだわったチョコレートをつくる。
この「最小限(ミニマル)」にこだわるという想いこそがブランド名の由来です。
そうしてチョコレートの最小限であり、香りの全てであるカカオの品質と、香りを引き出す製法にこだわったチョコレートづくりを続けています。
自社工房でカカオ豆から手づくりするMinimalの板チョコレートは、チョコレート専門の国際品評会で4年連続・トータル61の賞を受賞させていただいています。
※受賞した商品についての詳細はこちらでご紹介しています(公式サイトに移動します)
良質なカカオを求めて。世界中の農園へ
チョコレートの原料・カカオと言えば、ガーナのイメージが強いかもしれませんが、実はカカオは世界60ヶ国以上に生育しています。
さらにカカオはワインのように原料の品種や産地・栽培法によって全く風味が異なります。私達は世界中のカカオ産地を年に何度も訪れ、良質なカカオを厳選して農家さんから直接買い付けています。
農家さんと共同開発したカカオで作る、Minimalのチョコレート
Minimalでは、カカオは仕入れるだけではなく、農家さんと一緒に開発もしています。Bean to Barという製法自体も新しくはありますが、カカオの開発から関わるMinimalの手法はさらに稀なものと言えるでしょう。
前述の通りカカオの風味は多様です。「ナッツのような香り」や「ベリーのような香り」、「ハーブのような香り」など、驚くほどに豆の個性が豊かな農作物です。その個性を活かした香り高いチョコレートにできるのは、ごく一部の産地で丁寧に管理されて奇跡的に生まれた良質なカカオだけです。
カカオの質と、未だに残る貧困問題の関係
チョコレートは嗜好品として流通している一方で、原料を作るカカオ農園のほとんどが途上国にあります。また、植民地時代からの長い歴史の影響もあり、カカオ栽培は実入りの良い商売とは言えません。
にも関わらずチョコレートはカカオの発酵・乾燥に大変手間と労力がかかり、発酵の出来で風味が大きく変わります。今までは大量生産が前提で低品質・低単価の一択で品質を上げるという必然性がなく、また単価を上げるという機会もなく、それでも労力がかかる農家にとっては割に合わない商売でした。
政府関係機関とMinimalによる農園の本格支援
そんな中で良質なカカオを求める私達は、市場価格の数倍の値段でカカオ豆を購入し、微力ながら経済的な底上げを試みています。また、実際に現地へ趣き、良質な高単価で取引されるカカオ作りに農家さんと一緒に取り組んでいます。
例えば2019年には1年を通じて、JICAのODA案件化調査のプロジェクトでニカラグアを訪れ、政府関係機関などとカカオ豆栽培の調査・実験を行いました。この春からその豆を使った商品の販売を徐々にスタートしています。
参考資料:「ニカラグア国 カカオの高付加価値化とバリューチェーン構築のための案件化調査 業務完了報告書」
こちらはMinimalのニカラグア活動レポート動画です。
貧困と密接に関わるカカオビジネスにおいて、カカオの品質の価値に目覚めていない生産者がまたとても多いのが現実です。それでもMinimalは想いを共にできる人を探していきたいと考えています。
あまり語る機会はありませんが、こういった想いや取り組みをしながらチョコレートをお届けしています。
職人チームによる誠実なモノづくり
イタリアの三ツ星レストランやフランスのM.O.F.(国家最優秀職人章)パティスリー、国内外の名店・老舗トップパティスリーなどで腕を磨いてきた職人が集い、切磋琢磨しながらMinimalのチョコレートやスイーツは作られます。
「丁寧にシンプルに、最高の素材を活かし香りを最大限に引き出す」という原点に真摯につくられるチョコレートは、良質な果物やコーヒーのような「香り高さと軽やかさ」が特徴です。
基礎・基本に忠実にありながらも、伝統や手法にはとらわれない自由な発想で皆さまの生活に彩りを加える「こころに遺るチョコレート」をお届けしたいと思っています。
チョコレート専門店がUXを重視する2つの背景
もうひとつ大事にしているのが「体験(UX)」です。
私達はカカオ農家さんからバトンをもらい、良い素材から良いチョコレートを作り、お客様に買っていただき、喜んでもらうことで、再び農家さんから豆を買うことができます。このサイクルが美味しいチョコレートを作り続ける上で欠かせません。
そのためには「良いもの」をつくるのは大前提ですが、美味しさは品質だけではなく、どこで・誰と・どんな時間を共有したかという「体験」によってさらに変わってくると思います。
背景1. ヒントは、コーヒーやワインなどの嗜好品
体験を重視するひとつの背景に、嗜好品の存在があります。
「ワインのラベルのデザインがかわいい」
「ソムリエが食事にあうワインを選んでくれた」
「バリスタが農園の映像を見せてくれた」など。
コーヒーやワインなどの嗜好品は、何も知らずに飲むよりもこのような体験があることが、美味しさをより深く味わうことに繋がるのではないでしょうか。
これらと同じく素材の良さを引き出すことが要求されるチョコレートも、「良いモノづくり」と「最高の体験」の両輪が必要だと考えています。
背景2. 1枚1000円以上のチョコレートを買ってもらうには
また、私達が体験の設計にこだわっているもうひとつの背景には、創業当時は私達のチョコレートが目新しいものだったというのもあります。
今でこそ「ビーン・トゥ・バーチョコレート」という言葉を聞いたり、食べたことがある方もいると思います。しかし私達が創業した2014年当時、認知はゼロに近い状態でした。「カカオって聞いたことあるけどコーヒーの兄弟?」「カカオが違ってもチョコはチョコでしょ?」という状態です。
100円のチョコレートや高級なボンボンショコラが普及している中で、1枚1000円以上のチョコレートを買っていただくのは今思ってもクレイジーな話です。この価値を伝えるために試行錯誤を繰り返したことが、体験にこだわる私達を形作ったのかもしれません。
お店や商品に関わるすべてが“MinimalのUX”
私達が考えるUXの範囲はブランドの全てにおよびます。
店舗のデザインやサービス、商品のデザイン、読み物やWEBはもちろんのこと、よりダイレクトな体験としてワークショップやファンミーティングもたくさん行っています。ファンイベントののべ参加者数は1万人を超えます。
販売というプロセスの価値は、お客様に喜んでもらうこと
たとえば販売ではお客様との会話を通して、チョコレートだけでなくチョコレートが加わることで生活を豊かにするような提案を心がけています。商品を売るという機能ではなく、会話という時間を通して商品をお客様に喜んでいただけて初めて、販売としての価値があると考えています。
そのため販売スタッフにも食の領域のプロを採用しており、北欧で腕を磨いたバリスタや、ソムリエ兼利酒師などのバックボーンを持つ人材が集まっています。
さらに、より良い提案ができるよう、製造スタッフと共に販売スタッフも日々勉強会で研鑽を積んでいます。採用や人件費など簡単な判断ではもちろんありませんが、私達が届けたいUXのためには欠かすことのできないキーです。
おかげさまでMinimalには口コミやリピーターのお客様がとても多くいらっしゃいます。特にチョコレート専門店という、従来は女性がターゲットにされる傾向だった分野にも関わらず、グルメな男性が多いことが特徴です(Minimalのお客様の約4割は男性です)。
ちなみにこちらの写真は5周年記念ファンミーティングの際の、Minimalをご愛用いただいているお客様とスタッフの集合写真です。
“不便”な本店の立地も、UXの一部
第1号店の富ヶ谷は、駅から徒歩6分の住宅地の中にあります。
ここは小売の鉄則である「好立地」とはまるで真逆の「アクセスしづらい」場所で、立地のプロから大反対を受ける中で勇気のいる決断でした。しかしこれも私達が提供したいUXから逆算してのことです。
こちらは次回のnoteでお話しますが、お客様との会話を通じて1枚のチョコレートの購入に存分に満足していただくことが、Minimalが広がるきっかけになると考え、人の出入りが少ない落ち着いた空間を敢えて作りました。
こういった取り組みや体験づくりを評価いただき、「グッドデザイン賞」ベスト100の受賞や「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017」といった、「食」以外のクリエイティブやビジネス分野のアワードをいただくことができました。
他にも、
「ワールドビジネスサテライト」
「日経スペシャル 未来世紀ジパング」
「Forbes JAPAN」
「NewsPicks(単独特集)」
「東洋経済オンライン」
全国紙各紙
など、1500件以上もTVや雑誌・新聞などで取り上げていただきました。
取材では、エシカル消費やSDGsといった切り口で、Minimalのカカオ産地の活動を伝える姿勢や、ブランドのフィロソフィーやデザイン、ファンイベントについて幅広くご紹介いただいています。
なぜnoteをやるのか?
このnoteは私達と同じようにお店を営む方の役に立てばという想いで始めようと考えました。
私達はクラフトやアルティザナル(職人的)な文化が好きです。作り手の想いがあり、個性があり、唯一無二の商品・サービス・人に出会うことは、人生を豊かにしてくれます。そんな「いいモノ」、すなわち「いい暮らし」を世の中に提供したいと思う、私達と同じような志のお店の役に立ちたいと思ったのです。
Minimalも大打撃を受けているように、小さな企業は今回のコロナでかなり疲弊しています。
しかし食に限らず、小さなお店や取り組みこそが、世の中に新しい楽しみや良い暮らし方のきっかけを示せる可能性を持っていると私達は考えています。世間が抱える課題に対して、より良い生き方や、生きる喜びへの指針となるものを提供したい。信頼できる小さな企業はそれを日々模索しているのではないでしょうか。
そしてその動きは、はじめは小さくても時間をかけて拡がり、最終的に社会の流れを作っていくのだと思います。
今回のコロナ禍で、暮らしを豊かにしてくれる良い作り手が閉業に追い込まれたり困窮するということが起きています。クラフトや職人のモノづくりが廃れてしまったら...きっと新しいわくわくするような暮らしの種や文化がなくなってしまうのではないでしょうか。
私達自身も小さなお店ではありますが、わくわくするような好きなものが今後も世に残ることに役に立てればと思い、考えたのがこのMinimal公式UX noteです。お店ごとに商品やビジョンは違っても、顧客体験(UX)の考え方には一定の汎用性があるかと思います。私達と同じようにお店を営む方の何か役に立てば嬉しいです。
何を投稿するのか
お客様にお届けしたい体験をどう形にしたのか。UX(顧客体験)の試行錯誤について可能な範囲でオープンにご紹介させていただきたいと思っています。
お話することは多岐に渡ります。サービス、商品デザイン、店舗デザイン、イベント、ファンコミュニケーションなど、私達に関わる全てのことをUXという観点からご紹介します。
また、UXについての解説だけでなく、体験を通して提供しているブランドのフィロソフィーや商品そのもの、サービスやチームづくりなどのUXの裏側にあるさまざまなこともご紹介したいと思います。
今後、週1回ほどのペースで連載する予定です。
noteコミュニティの皆さま、どうぞよろしくお願いします!
(次回は富ヶ谷本店のUXについてお話します)