差別化より先に考えるべき“らしさ”の話
チョコレート専門店のUXシリーズ、第2回は「らしさ」の大切さと「らしさ」がもたらしてくれる差別化(優位性)について。
「なぜMinimalはチョコレート屋なのにあえて男性的なデザインなのか?」。その理由をMinimalのビジョンやモノづくり、そして差別化の観点から整理していきます。
Minimalのデザインが比較に男性的なのは、単なる趣味嗜好ではありません。私達が10年後、50年後に叶えたいビジョンと差別化の両面から、悩み抜いて選択したデザインのトーンになっています。
結果、女性がメインであったチョコレートの業界で、Minimalはお客様の4割が男性となり、嗜好品としての認知や市場を新たに開拓しはじめているように感じています。
ここまでのプロセスで大切だったのは「差別化が目的の商品作り」ではなく「ブランドの本質(らしさ)を磨き伝えること」でした。今回はこのことを深掘りしていきます。
選ばれるブランドは、“らしく”あり続けられたブランド
2014年創業という浅い歴史ではありますが、Bean to Barという消費者にとって馴染みのないプロダクトを届ける中で、私達は「らしくあり続けられないならブランドにはなれない」という気づきを得ました。
もっと言えば、「らしさ」を出し続けて勝てるフィールドを選んだ(正確には勝てると見立てたフィールドにおいて変化に対応しながら「らしさ」を磨き続け、受け入れられ続けた)ブランドこそが残るということです。わかりやすい例を挙げればユニクロやAppleのような、誰もが知っているブランドも「らしさを出し続けている」一例だと思います。
“差別化”の本質は、自分たちの持っている“らしさ”をきちんと表現すること
「らしさ」を磨き続けること、「らしさ」による感動を与え続けることが「結果として」差別化になる。このことをMinimalをつくっていく中で実感しました。
しかし「らしさ」と言っても、当人が磨き続ける気がない要素をストロングポイント(差別化要素)にした場合は、すぐに廃れてしまうでしょう。「ここが他のブランドと差別化できているからOK」くらいの差異ではダメということです。
本当にその要素でお客様に喜んでもらえるようにコミットする気はあるのか、果たしてそれはやり続けられるのか(持続的な優位性になるのか)。それらを自分たちに問うた上で、差別化に用いる「らしさ」を抽出すべきだと私達は考えます。
つまり「差別化」の本質は「自分たちが磨き続けたい“らしさ”をきちんと表現すること」だと思います。
そしてこの「らしさの表現」というのが、
「らしさを磨き続けること(Minimalでいうチョコレート作り)」
「らしさで感動してもらうこと(Minimalでいう顧客体験)」
です。これらがこのnoteで伝えたい事柄そのものです。
“選ばれる”ということは、“思い出される”ということ
とは言え、最終的には選んでいただくことがゴールになります。そして選ばれるためにはまず思い出してもらわないことにははじまりません。
例えば「友達に甘い物を買って行きたいな、どこで買おうかなぁ」という時に思い出してもらえるか、ということです。しかしよく言われる「1位は富士山、2位は...?」という状況のように、人がすぐに思い出せるのはNo. 1だけです。
「牛丼なら吉野家、松屋、すき家」、「コンビニならセブン、ローソン、ファミマ」と想起されるパターンはむしろ例外です。これらは店舗やCMを日常的に目にするからです。そうではないほとんどのブランドはすぐに想起されることがまず無いのが実情ではないでしょうか。
つまり、「選んでもらう=思い出される」ためにはNo.1になる必要があります。
“No.1ブランド”になるための市場選び
簡単にNo.1になれたら苦労はしないのですが、ではどうやってNo.1になるのか。No.1になれるカテゴリー(切り口)を自分でつくる、というのがセオリーではあります。
つまり「●●と言えば?」と言われて思い出されるのがNo.1なのではないでしょうか。
例えば一口に和菓子と言っても、
「目上の方への贈答でNo.1の和菓子」
「日常の茶菓子に食べたい和菓子のNo.1」
「友達にあげたい気分が晴れるような和菓子のNo.1」
「今話題の気になる和菓子No.1」
という切り口ごとにNo.1は違うように、自分がNo.1になれる切り口を探すのです。
ただカテゴリーは大きすぎても埋没する可能性がありますし、逆に小さすぎても人が来ないようでは意味がありません。
新しいものは、“らしさ”でオンリーワンを目指すべき
また、特に私達のような小規模で新しいものに挑戦するブランドにとって、オンリーワンであることも大切だと思います。
なぜならお客様にとって新しいものは期待もある一方、リスクもあります。「リスクをとってわざわざ新しいものにチャレンジする理由」がないといけません。「で、結局他と何が違うの?」と思われてしまうのは離脱とほぼ同義です。そこで「らしさ」をちゃんと伝える必要があるのです。
Minimalも同じ課題がありました。オンリーワンになるというのは、何をつくりたいのか、なぜつくりたいのか、何を成し遂げたいのか、というブランドの根本の話です。
ここで私達について改めてふりかえっておきましょう。Minimalのチョコレートは「カカオと砂糖」という最小限の要素で、素材を活かしたモノづくりによって作られています。
また、基礎・基本に忠実にありながらも、伝統や手法にはとらわれない自由な発想で皆さまの生活に彩りを加える「こころに遺るチョコレート」をお届けしたいと思っています。
そして、産地によって異なるカカオの特徴と造り手の個性の掛け合わせでつくられるチョコレートを、コーヒーやワインのような食の文化に醸成する、というビジョンがあります。
例えばクラフトビールも、10年ほど前は「高価な地ビール」のようなイメージがあったと思います。今ではどうでしょうか?多くの方が個性のある味わいを楽しんでいます。最初は小さくても長い時を経て普及し、そして文化になる。それを私達もチョコレートで実現したいのです。
これらがMinimalの「らしさ」です。
嗜好品らしいチョコレートは関心を持たれるのか?
冒頭で「差別化」の本質は「自分たちが磨き続けたい“らしさ”をきちんと表現すること」だと私達の実感をお伝えしました。
「“らしさ”とは何か」の次に、私達が「“らしさ”を磨き続け、感動を与え続けられるか?」と聞かれれば、その答えはYesです。カカオは世界中にあり発酵技術や品質改善ははじまったばかりです(ワインや日本酒の歴史から考えれば今がスタートライン)。例えば焙煎や磨砕といった加工、板チョコレートやスイーツなどの製法などを考えれば何十年かかっても終わらないほど磨きがいのある道程です。
そんなMinimalらしさである「職人気質なモノづくり」が軸にある私達でしたが、店舗や商品のデザインを考える時に「らしさ」をそのまま伝えるべきか悩みました。体験さえしてもらえれば間違いなく感動すると思ってはじめているので、もちろん自信はある。問題は関心をもってもらえるかどうか、の1点でした。
従来のチョコレートを好きな層が興味をもってくれるのか?今までチョコレートを食べてこなかった嗜好品を好む層(こちらは逆に男性が多い)が興味をもってくれるのか?これがシンプルな問いであり、心配事だったからです。
と言うのも、従来のチョコレートからイメージされる消費者層は女性で、実際にチョコレートの催事やイベントに来られるのは圧倒的に女性が多いです。甘いお菓子という特徴や、その昔は貴族の贅沢品だったことから王宮御用達のような、高貴で特別なイメージが高級チョコレートにあるのも影響があると思います。
一方、Minimalらしさを素直にデザインに落とすと、ワインバーやウイスキーバー、スペシャルティコーヒーショップなど、男性的なものになります。
男性が食べるチョコレートの市場はあるのか?
しかしまだ男性や嗜好品好きな人にとってチョコレートが自分ごとになっていないだけで、知りさえすれば関心をもってくれるはずで、男性がチョコレートを好まないとは限らないと私達は考えました。
前述の通り、Bean to Barスタイルで作ったチョコは素材や食べ方の違いを楽しむ食べ物です。嗜好品としての文化になれば、絶対に男性も気に入ってくれるはずだという確信がありましたし、私達のビジョンをかなえるためには腹を据えて実現させないといけないという思いも強くありました。(突然の根性論になりますが、最後はやると決めてやるしかないです。笑)
そのため、1枚1000円以上するチョコレートだからと言って、従来の高級品のような「女性のためのご褒美チョコ」のようなデザインのトンマナとは棲み分けたいと考えました。そうしないとMinimalのらしさに目を向ける前に、「あのブランドと何が違うの?」という比較がはじまるためです。
オンリーワンの「らしさ」で勝負できる(したい)と思った以上、あえて比較されるデザインにする必要は全くなかったのです。
このように考えた結果、私達は「嗜好品=男性が好むもの」という「らしさ」をデザインでも表現する決断をしたのです。
Minimal“らしさ”を表現したデザイン
コーヒーやワインなどの嗜好品のようなカルチャーを創るというビジョンの実現と、ブランドに元々備わっていた「素材を活かすモノづくり」で「思い出されるブランド」になる。
これらを実現するためにMinimalは「嗜好品が好きな感度の高い男性」をデザインを考える際のターゲットとしました。
ターゲットをイメージしながらデザインを思考し、店舗やパッケージができあがっていきました。そして私達のチョコレートを世に送り出したところ、当初の期待通りチョコレートを好きになってくれる男性が存在することがわかりました。
オンリーワンのNo.1を目指した結果、ありがたいことにMinimalは「Bean to Bar」チョコレートを牽引する存在として、これまで1500件以上メディアで取り上げていただきました。
そのおかげでMinimalは「らしさ」を真摯に磨きながら、変化もしながら、今でもらしくあり続けられているのだと思います。
最後に余談ですが、以下の3つの画像は富ヶ谷本店のデザイン案です。黒いパターンは男性でも入りにくいほどの世界観ですね。当時は真面目に候補のひとつとして検討をしていましたが、最終的に一番上の案にしたのは良い判断だったと思います。笑
このように、Minimalでは差別化された商品作りのためではなく、つくりたい商品、届けたい感動、目指すビジョンという「らしさ」を表現する手段としてデザインを活用しています。
富ヶ谷本店のUXシリーズ、今回も「男性向けデザインの理由」だけでまた1記事になってしまいました。
次回こそ、内装や接客の空間づくりなどをお話しようと思います。どうぞお楽しみに。
Minimal 富ヶ谷本店について
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- 11:30~18:00 ※当面の間
- 定休日無し
・住所
- 〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9
・電話
- 03-6322-9998
・アクセス
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