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オンライン時代のD2CものづくりブランドのUX(vol.1)

コロナ禍でのMinimalの1年間の振り返りとして、

「オンライン時代に、リアルとECをシームレスに体験できる、ものづくりブランドをつくるためのUX」について、全3回でお伝えします。

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2020年2月。

何かがおかしいぞと社会がざわめき始めたタイミングはチョコレート店にとって一年で一番大切なバレンタインとホワイトデーでした
その忙しい時期にコロナ禍が直撃し、あれよあれよと世界は未曾有のパンデミックに突入しました。

リアル店舗が制限を受け売上が急激になくなっていく中で、チョコレートブランドとしてMinimalがどう考え悩み、動いたかを1年経ったこのバレンタインのタイミングで振り返ります

全3話に渡り、バレンタインまでのチョコレート屋の葛藤・苦闘のリアル奮闘記と、その時に考え実行した事を「UX」という観点からお届けします。

存在意義がない!?

富ヶ谷内装写真


忘れられない光景があります。

2020年3月中旬の東京・銀座、朝10時過ぎの中央通りの光景。スタッフが銀座店に出勤するのは、土日であればいつもは歩行者天国で混雑して、楽しそうな人の笑顔で溢れる時間帯のはずでした。

しかし、コロナ禍で社会が混乱し、その日の銀座の中央通りには、誰一人歩いていませんでした。銀座で商売をした4年間で、誰一人いない休日の中央通りを見たのはこれが初めてのことです。

賑やかな銀座とは思えない、まるでゴーストタウンのような異常な光景に、背筋が凍るような悪寒を感じ、これまで経験したことがない未曾有のパンデミックを実感しました。

2020年は、バレンタインこそコロナの影響はすくなかったものの、男性客が多いMinimalにとって、バレンタインと同じくらいチョコレートが売れるホワイトデーは大打撃を受けました。

そして4月には緊急事態宣言に入り、次第に店舗からお客様の姿は無くなっていきました

こうして一年の最繁盛期に襲った危機は、お客様とともに売上も奪っていきました。そして、何よりどういうウィルスなのかがわからない中、スタッフやお客様の安全が脅かされるという不安がとても重くのしかかりました。

店舗での商売をメインに生業としていたMinimalにとって、いくらこころを込めて造ってもお客様に届けることができないという、存在意義の喪失の危機でした。

それから、今この瞬間までずっと悩み続けている「お店にお客様が来て頂きたいけど、来て下さいと言っていいのか・・・」という思いを抱えながらの日々が始まりました。

いち早い業態変更の決断

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遡ること2020年の2月後半。世の中が徐々に騒がしくなる中、Minimal経営陣は専門家や周りの経営者などに状況把握に努めていました。

3月前半、ホワイトデーに向けて盛り上がりを見せるはずの時期にはお店や催事での来客数が減少し、世の中の混乱は加速していきました。

そんな中で実は、この状況を受けて私達は3月上旬に大きな決断を2つしました。

■決断1:送料を無料にする

3月4日にオンラインでの送料無料セット販売を決断。

一番の要因は催事の消滅です。コロナウィルス蔓延で予定していた催事が無くなりました。そのため、製造したチョコレートが大量に行き先を無くしました

こころを込めて造ったものを破棄するくらいなら、外出に不安のあるお客様に直接届けよう。そうしてほとんど赤字か利益0に近い状態でしたが、送料無料でオンラインで販売を開始しました。(以下記事にも取り上げて頂きました)

■決断2:オンライン販売への切り替え

Minimalはリアルな店舗を主体に育ってきたブランドです。お客様のリアル体験を重視し、店舗に来店いただき食べて聞いて感じるという、五感での体験を大切に、丁寧に接客することでファンを増やしてきました。

しかし、お客様の安全を考えると「来て下さい」とは言えません。

そして、この状況はどうやらこれまで経験したことがない長期戦を覚悟しないといけないと考え、ある意味でリアルでの成功体験を捨てる(頼らない)という決断をしました。

そして、そこからオンライン販売を伸ばすという決断をして、工房に併設していた白金高輪店を閉店工房を拡張して冷凍配送でも美味しいEC用の冷凍スイーツの開発のための準備を始めたのです。

緊急事態宣言が出ると言われはじめ、先行きが不透明な3月中旬には工房拡張に伴う数百万規模の投資を決断しました。これは、リアル店舗での売上が減少している中で、いちかばちかの本当に肝を冷やす決断でした。

■UX的視点1:スイーツの提供価値に立ち戻る→幸せな気持ちにする

上記2つの決断に至った背景として、社内での議論がありました。そもそもチョコレートを生業にしているMinimalがこの状況下でお客様に提供できる価値は何か。また、チョコレートを含めたスイーツの根源的な提供価値は何か。それはシンプルに甘いものを食べて「幸せな気持ちになる」ということだという結論にたどり着きました。そうであれば、世の中がどんな状況であれ、お客様にスイーツを届ける手段をもたないといけません
そこでやるべきことはシンプルです。オンラインを使っての販売を強化するのです。この一年で世間ではスイーツをオンラインで買うという習慣が少しずつ広がってきましたが、一年前はまだまだハードルが高くありました
お客様に簡単なアンケートをとって「1000円~2000円のスイーツに1000円の送料を払うのは心理的に抵抗が大きい」という声が拾えたので、まずは届けることを重視して送料無料を決断しました。
3月4日に始めたコロナ応援送料無料セットは一瞬で売り切れ、2月後半~3月前半のオンライン購入者は昨対比で3倍になりました。
その中でオンライン販売でのニーズを注意深く探りました。やはり自粛で外出が難しくなるとすれば、お客様はストレスを感じる。その時に必ずオンラインスイーツは求められるはずという結論に至り、提供価値を高めるオンライン販売への舵をきる決断早々にしました。
■UX的観点2:ミッションに立ち返る→「チョコレート新しくする」

チョコやスイーツの提供価値の議論の中で、迷ったときにこれまでずっと立ち返ってきたのは、「チョコレートを新しくする」というMinimalのミッション。お客様と生産者、そして造っている私達自身を巻き込んで新しいチョコレートの価値のムーブメントを創ることがミッションです。
私達は農家さんがカカオを大切に育ててくれたバトンを引き継ぎ、商品を作り届け、食べていただくこと、喜んでいただくことが役割です。カカオ農家さんとMinimalの職人達がこころを込めて造ったものを、きちんと届けること。絶やしていけないと強く思いました。
社会の状況が変わっても、その不変なミッションに向き合うことが、Minimalを信頼して購入してくださるお客様への根源的な提供価値であると考えました。


「オンラインで買う」と「店舗で買う」の決定的な違い

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3月上旬の決断を経た4月。緊急事態宣言が出る少し前から工房の工事を開始しました。そして拡張工事と共にスイーツの製造設備投資も行いました。

Minimalのシグニチャーは板チョコレートです。カカオ豆の味わいを最もダイレクトに伝えるものとして板チョコレート以上のモノは無いと思っています。

しかし、オンライン販売として板チョコレートが最適かというと、そうではないことがわかってきました。厳密に言うと、Minimal店舗や催事でリアルに食べた事がない人が、初体験でいきなり板チョコレートを購入するのはハードルが高いということです。

なぜかというと、お店であれば、見て、触って、香りを楽しみ、食べて、比べて、説明を聞き、質問して、他お客さんの声も聞いて、と五感をフルに使って意思決定できます。しかし、オンラインは極端に言えば視覚情報のみです。

そうなると過去記憶内に再生される一般的なシズル感のある画像が一番のキーコンテンツとなります。そうなると板チョコレートは相対的に劣ってしまうのです。3月に送料無料プランを初めてそのことが顕著にわかってきました。

■UX的観点3:お客様の立場に立って、購入の際のキーを考える
→店舗は味覚嗅覚、ECは視覚

販売するチャネルにおいてお客様が何を重視して購買意思決定をするかを考えることは当たり前のようで難しい。Minimalは機能的にも情緒的にも語るべき情報やストーリーが多いのが特徴です。しかし、初見でWebでMinimalのサイトを見た人が視覚情報だけで過度な情報を拾ってくれると考えるのは甘いと言うことがよくわかりました。だからこそ、初回購入はシズル感があるスイーツに変更するという意思決定をしました。

オンラインスイーツの価値を定義する

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いよいよ工房の拡張工事が完了して、そこから試行錯誤が始まりました。スイーツ開発のポイントはスイーツの種類ごとに「期待される美味しさ」と、「Minimalらしさ」の両立です。

そのきっかけの最初の商品であり、今Minimalの中で最も売れている商品の一つであるのが「チョコレートレアチーズケーキ」です。

レアチーズケーキというシズル感と、酸味や果実味のあるMinimalチョコレートを使うことで、クリームチーズのまろやかさとチョコ感と酸味・果実味による、重くない満足感があり、世の中に類がないケーキを実現しました。

また、オンラインにおけるスイーツの可能性という意味で言うと、冷凍でもおいしく、冷凍だから意味があるとポイントにもこだわりました。

スイーツは形状も20cm✕5cmの長方形に決定しました。テレワークで在宅が多くなった時に、家族と取り分けたり、一人でもちょっとずつ解凍して食べることがしやすい形状というのが理由です。

そして、代々木上原店限定で販売しているガトーショコラを2種類から6種類にリニューアルをしました。実はこのことをきっかけに上原店の来店数も激増したというおまけつきでした。

次に季節ごとにオンラインで発売するシーズナルスイーツのテーマを決めて開発を進めていきました。

上記の商品が牽引して、オンライン販売実績は4月~6月で平均すると昨対約400%成長を実現しました。

■UX的観点4:オンラインスイーツだからお客様に提供できる価値

コロナで在宅時間が長くなることをお客様の立場で考えた際に、在宅で同じ環境にいる時間が長い事で感じるストレスや、オンとオフの切り替え、家族とのコミュニケーションなどに通常ではなかった問題があります。そんな時にご褒美として食べて幸せな気分になったりリラックス出来るきっかけとしてスイーツは役に立つと考えました。だからこそ、形状は20cm✕5cmと長方形に決定しました。少しずつ切って取り分けることで家族など取り分けて一緒に楽しむことができるからです。
またオンラインでスイーツを買うお客様にとってのメリットとして考えたことが、生菓子の提供でした。生菓子は提供側としては原価も高い。お客様からしても値段は高めで、持ち運びが大変で、賞味期限が1日など極端に短いものが多いことが特徴です。そのデメリットを克服すべく、冷凍でお届けし、そのまま冷凍して必要分だけ解凍して長く楽しめることが、お客様のメリットになるはずだと考えました。冷凍スイーツにすれば、生菓子なのに賞味期限を延ばすことができるのです。これにより、一人暮らしの方でも一度に食べきれないような量のケーキを買えるようになります。

事業変更による組織の疲弊~続編へつづく〜


一見すると順調そのものですが、実は内部状況はそうでなかったと代表山下は言います。

山下:「正直に言うと、オンラインでスイーツ販売への変更は業態変更に近く、かなり無理をしたと思います。みんなが気力を振り絞って頑張ってくれなかったらできなかった。結果、売上は上がりましたが、内部の状況はボロボロだったと思います。僕も含めて(笑)」

通常はチョコレートのピークシーズンは3月までです。4月以降は落ち着く時期ですが、コロナの影響で4月以降もさらに緊張を強いられる期間が続き、スタッフ達も精神的にも体力的にも疲弊は続きました。

その中での新規商品開発とオンライン販売のために、全スタッフのマインドチェンジをして組織体制を変更していくことは大変なことでした。

全てはチョコレート、スイーツを「届ける」ための決断ですが、不安な状況下で短期間での変更はさまざまな歪み(ひずみ)を起こしました

さて、今回のUX noteはここまでです。

次回Vol.2では、
疲弊した組織をどう回復し立ち向かっていったのか
そしてオンライン時代の商品開発の裏側を、お届けします。

2月8日頃の配信ですので楽しみにお待ちください。

■今回連載シリーズ「オンライン時代のD2CものづくりブランドのUX」
Vol.2はこちら
Vol.3はこちら

Minimalチョコレートのオンラインストア

*この連載の一つのトピックスでもあるUXの改善を進めたHPです。ぜひその視点でもご覧下さい。

Minimalバレンタインページ

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